天国にちょっとだけ近い場所の最近の記事




天国にちょっとだけ近い場所



                        4


「あたしはね、高い所が好きなの。だからこの屋上が大好きなのね」
 夜行性の少女はネオンサインの光が乱舞するビルヂングの屋上で、裸のままそう言った。
 何十年間もの雨に打たれてすっかり黒く変色してしまったコンクリートの床がだだっ広くひろがって、フチの部分がほんの二十センチ程高くなっているだけで金網も手すりもないから危険だけど見晴らしはいい。
 都心とはいってもこのあたりは、空襲にも焼け残った古い建物が多くて家並みはおしなべて低い。そのせいでこの屋上はちょうどエア・ポケットのように浮世離れした空間になっている。
 ポツポツとあちらこちらに高層ビルやアンテナのてっぺんで点滅する真紅の灯が見えたり、皇居の方面だけは暗かったり、なるほど、彼女じゃなくったって夜遊びしたくなる。
「高いところってね、それだけ、ほんのちょっとだけど天国に近いんだって。ね、そんな 気がしない?」

天国にちょっとだけ近い場所

| コメント(2)



天国にちょっとだけ近い場所


               3


 思春期前の少女の体躯というのも、僕は僕なりに銭湯やプールなんかで十分に観察したつもりでいたのだけど、やっぱり本物は微妙にデッサンが違ってるなあと、そう思った。
 ラーメン屋のムクムク姉ちゃんの絵は本人にくれてやって、もう一度最初から描いた方 がいいかも知れない。
「だってさあ、この部屋、もうずっと空き部屋だったんだよオ。だからさア..........」
 裸になった幽霊の女の子は恥ずかしいのか落ち着かないのか、両足をすり合わせてモジモジしている。
「コラ、そんな動いてちゃ、絵がかけないじゃないか」
 あわてて探し出した使い古しのキャンバスに木炭を走らせながら、僕は裸の少女に声をかける。特に脇腹から腰にかけての線が大人の女とは全く違った感じだ。あんまりにか細くって、それでも決して骨ばった風ではなくて柔らかな丸みを持っている。
 少女は近くの家の子供なのだけれど、どうも夜遊びぐせがあるらしくて、夏になると時々はこのビルの屋上で遊んでいたというわけなのだ。みんなが幽霊だと思ってたよ――そ う教えてやるとケタケタと笑った。

天国にちょっとだけ近い場所

| コメント(2)



天国にちょっとだけ近い場所


               2


 ところで、この関東大震災のすぐ後で建てられたというビルにはそれにふさわしく幽霊が出るという噂がある。
 それを知ったのは入ってから一週間も過ぎてからで、僕もまあ呑気といえば呑気なわけだが、でも出るのが小さな女の子の幽霊だというのだから別に恐いという代物でもない。
「そうねえ、夜中の十二時......過ぎた頃かなあ。階段をトントン登る音がして――「あれ、こんな時間におかしいなアってドア開けたらネグリジェのすそと小さな足。あわてて追いかけたんだけど踊り場の所で見失なって......三階に出たらもう、影も形も見えないんだ。 仕事で徹夜する度にそんな事があって.......」 そう教えてくれたのは二階にある木星書房という小さな出版社の小野寺編集長だ。
 仕事から帰った僕がパンをかじりながら絵を描いていると音もなくすり足で階段を登ってきていきなりドアを開けられたのでびっくりしてしまったのが、彼との出会いである。
 まるで本人が幽霊みたいだった。
「ビールでも一緒に飲もうかと思って......」

天国にちょっとだけ近い場所

| コメント(2)



天国にちょっとだけ近い場所


            1



 まるで天国にまで続いていそうな階段だ。――はじめてその、古ぼけたビルヂングの入口に立った時に、僕はそう思った。
何しろ階段は入口からずっと折れ曲がらずに三階の入口まで一直線に続いている。近眼気味の僕にしてみればほとんど天国にまで続いてるんじゃないかと思ってしまう程だ。
 綺麗な模様の入ったタイルが所々欠け落ちた階段を一段一段登りながら、 そうだ、こんな階段は外国映画の古い建物によく出てくるなア、なんて考えている。踊り場もなくて手すりも半分程しか残っていないし、それもグラグラしている。
 二階にはすりガラスのドアがいくつかと、やたら古びた郵便受けがこわれかかってポツンとあるけれど、ちょっとした広間みたいなそのスペースはホコリまみれで人の気配は感じられない。××経済研究所、××株式会社東京営業所、あるいは単に名字だけを小さな紙に書いてドアに張りつけてあったり、でも、いずれのドアのむこうもシンと静まりかえって物音はしない。
 更に上へと登ってゆく。
 三階かと思ったのは実は踊り場で、階段はそこで折れ曲がっている。大きな窓にダマされたのだ。
 三階にもやっぱり小さな事務所が並んでいて人気はない。
「ここです」
 一つのドアの前で案内の老人が立ち止まった。その老人もまた、このビルと同じくらいに古ぼけて見すぼらしい。
 それでもドアを開けると中は結構に片付けられて、壁も真っ白く塗られていた。
「ここの上が屋上なのです。半年に一回くらい、消防署の検査で通らせてもらいますですが。狭かったらこの階段に荷物を置いてもかまわないんですが、ね」
 なるほど、部屋の壁からいきなり階段が出ているのだ。まるでエッシャーの絵でも見て だいるみたいな気分で、めまいがしてきそうだった。
 場所の割には嘘のように安い部屋代で、しかも敷金も権利金もいらないという好条件も あったけど、僕がその部屋に住む気になったのはその階段のせいだと言ってもいい。部屋の中に階段を飼っておくなんて、チョット酒落ているじゃないか。

天国にちょっとだけ近い場所

| コメント(2)
21041901.jpg

割と初期の頃に書いた作品で、これもワープロ以前の手書きアナログ原稿時代なので、再録もデジタル化もされてない。今回が初めての再録です。書いてから40年以上経っている。中編というより短編なので、明日から何回かで終わると思う。内容はちょっとライトノベル風でもあるw


天国にちょっとだけ近い場所

               1



まるで天国にまで続いていそうな階段だ。――はじめてその、古ぼけたビルヂングの入口に立った時に、僕はそう思った。
何しろ階段は入口からずっと折れ曲がらずに三階の入口まで一直線に続いている。近眼気味の僕にしてみればほとんど天国にまで続いてるんじゃないかと思ってしまう程だ。
 綺麗な模様の入ったタイルが所々欠け落ちた階段を一段一段登りながら、 そうだ、こんな階段は外国映画の古い建物によく出てくるなア、なんて考えている。踊り場もなくて手すりも半分程しか残っていないし、それもグラグラしている。
二階にはすりガラスのドアがいくつかと、やたら古びた郵便受けがこわれかかってポツンとあるけれど、ちょっとした広間みたいなそのスペースはホコリまみれで人の気配は感じられない。××経済研究所、××株式会社東京営業所、あるいは単に名字だけを小さな紙に書いてドアに張りつけてあったり、でも、いずれのドアのむこうもシンと静まりかえって物音はしない。
 更に上へと登ってゆく。
 三階かと思ったのは実は踊り場で、階段はそこで折れ曲がっている。大きな窓にダマされたのだ。
 三階にもやっぱり小さな事務所が並んでいて人気はない。
「ここです」
 一つのドアの前で案内の老人が立ち止まった。その老人もまた、このビルと同じくらいに古ぼけて見すぼらしい。

明日、4/20より連載開始!

最近のコメント


コーヒールンバで珈琲を淹れる

コーヒールンバ/ウイリー・ジャパン

 
手網焙煎 コーヒーとポップコーン

 
ホンジュラスとキャラメルラスク



炭焙モカブレンド 400g2080円
モカマタリに、コロンビアとブラジルを当量ずつ。今では極めて少なくなった伝統の炭焙で、深煎りの極みに、苦味の中から仄かな甘みが味わえます。 400gのお徳用です。
  
 
北朝鮮のミサイルはなぜ日本に落ちないのか―国民は両建構造(ヤラセ)に騙されている
貴方はご存知だろうか?金正恩が150以上の国々と通商関係を結んでいることを。首都平壌が資源バブル に沸き立っていることを。日本とアメリカが彼らの核開発を援助したことを。 「狂人的な独裁国家」という北朝鮮像はインフォテインメント(報道番組を偽装したワイドショー)の中にしか存在しないことを。税・送料こみ1870円
略奪者のロジック 超集編 1650円
「ディストピア化する日本を究明する201の言葉たち」です。まさに今現在の日本の状況を冷静に見極め、何が起きているのかを鋭く考察した注目の一冊 となっています。
二ホンという滅びゆく国に生まれた若い君たちへ ―15歳から始める生き残るための社会学―「君たちが対峙する脅威とは、外国資本の傀儡と化した自国政府であり、生存権すら無効とする壮絶な搾取であり、正常な思考を奪う報道機関であり、人間性の一切を破壊する学校教育であり、戦争国家のもたらす全体主義である」(本書「まえがき」より) 税・送料こみ1650円
chichinoko_210.jpg
お湯に溶かすだけで「ほぼ」牛乳! カフェオレやカフェラテ、ロイヤルミルクティーが簡単に作れます。
丹那牛乳の全脂粉乳200g1120円
続・ニホンという滅び行く国に生まれた若い君たちへ―16歳から始める思考者になるための社会学― 私たちが直面する「重層化する危機」とは何なのか? もはや国家の消滅は避けられないのか? そして私たちはこの時代を生き抜くことができるのか? 本書はそれに明晰に答える最高峰の社会学テクストである。 税・送料こみ 1650円
放射能が降る都市で叛逆もせず眠り続けるのか- 原発事故は終わっていない。それは今なお進行する現実であり、身近に迫るカタストロフなのだ。なぜ国家は何もしないのか、なぜ報道は何も伝えないのか、なぜ国民は何も考えないのか、社会はどう変わるのか、経済はどう動くのか、そして我々はどうなるのか......... 答えは本書にある。 税・送料こみ1870円

_DSC41521_210.jpg


<蔵元 田中屋本店> 三年漬梅干 
17-23粒袋入 税・送料込み1320円
塩だけで漬けた梅干しです。添加物一切ナシ。豆州楽市でどうぞ

  
ポルノ雑誌の昭和史 (ちくま新書)



300円で買える
メッセージアート



まりなちゃんコレクション



ネットゲリラの缶バッヂ



ゲバラ缶バッヂ



281_AntiNuke ギャラリー

アーカイブ

  帆船Ami号
  ずっと富士山
  ピジョンブラッド
  電飾トロピカル帝都
  偽霊幻裏道士
  淫華 チャイナドール
  トワイライトタイム
  上海物語