ピジョンブラッドの最近の記事

トワイライトタイム

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  トワイライトタイム

         目 次
第 一 章 ライディング・ハイ
第 二 章 和泉 萠
第 三 章 いつものキスよりちょっと先まで
第 四 章 ふたたび別荘へ
第 五 章 ライダース・ブルー
第 六 章 茉莉子の決心
第 七 章 峠の出来事
第 八 章 喪 失
第 九 章 メルセデス・ベンツ
第 十 章 クリスマス・プレゼント
第十一章 二十三時五十七分
第十二章 ふたりだけのクリスマス

    あとがき


まだしばらく、ナンパな場面が続きますw バイクのバトルシーンをお待ちの方はもうしばらくお待ち下さいw この小説はけっこう気合いが入っていて、長編書く時には1週間くらいホテルに缶詰になって集中的にやったりするんだが、内容が内容なので、箱根ホテルに籠もって書いた。避暑地のホテルって、「図書室」があるんですね。ホアヒンのコロニアル風の古いホテルでも見たが、かつての箱根ホテルにも図書室があって、そこにあった古いアルバムが小説のネタになったりしました。


   第四章  ふたたび別荘へ


 萠に逢える。
 萠が、この道のむこうで待っている。
 アイジンなんていうのは、もっと派手で、キャバレーの女みたいなんだろうって、思っていた。ましてやそれが悪徳かどうかは知らないけど、不動産屋の愛人だったらなおさらだ。なのに彼女はそんな気配はまったくない。
 奇麗で感じが良くって、いつもしっとりと落ち着いていて。
 顔を思い浮かべて、そうだよ、なんで彼女はあんなに奇麗な髪をしているんだろう。しなやかで柔らかくって。
 ......あたし、萠です。昨日の電話の声がよみがえってくる。あの甘いささやくような声が。......あたし、萠です。びっくりした?
 別荘で色々話したとき、母親がやっているブティックの名前を教えていたのを思い出して、やっと納得した。彼女はブティックのほうに電話して、祐一の母親の友人だって嘘までついて、自宅の電話番号を調べたのだ。
 .........タイヘンだったのよ。電話番号、調べるの。でもあなたにあやまらなくちゃいけないと思って。あたしのせいで怪我させたのに、なんか追い返すような真似して。
 隣の部屋では裸の茉莉子が何も知らずに眠っている。それを気にしながらも電話のむこうの声に魅入られてしまう自分の気持ちを押さえきれなくて、たった一度だけのキスの味が罪悪感とともによみがえっていたんだ。


ピジョン・ブラッド 最終回

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 川本耕次・書き下ろし長編ハードボイルド
  ピジョン・ブラッド

  あ と が き

 昔々あるとこに......じゃあ、日本昔話になってしまうが、それほど昔のこと、大陸書房という出版社があった。UFOや超能力の、今で言うオカルト系で有名だったのだが、何を考えたのか、エロ系の本とかをやたら沢山出しはじめた時期があったことを、覚えてらっしゃるだろうか。忘れたよな、そんなマイナーな話。
 わたくし川本耕次めの本も出てます。例によっての少女物。でも、エロの少女物だからバレエ踊ったりピアノ弾いたりはしない。浜辺で人造愛液を煮たり、夜光虫にまとわりつかれて溺死体ごっこしたりするけど。まっ、それはそれとして、この小説『ピジョン・ブラッド』だけど、その大陸書房で出していた新書版のミステリーの一冊になる予定で書いていたものです。
 川本耕次といえばエロ、処女なのに初体験から腰、使っちゃったり、オルガっちゃったりするような小説のイメージが業界では強い。それで売れもしたし、誉められもした。
 自分でもそれに不満があるわけじゃないのだが、さすがに二十四時間エロばっかり考えている人間でもないので、たまにはハードボイルドしてみたくもなるわけです。
 いやあ、それにしても慣れないジャンルの作品は大変だった。取材だけで何回、足を運んだことか。旅行なんて嫌いなのにタイには続けざまに五、六回、それも二週間ずつだった。
 もっとも、そんなこんなで筆が滞っているあいだに肝心の大陸書房が潰れてしまったんだから世話はない。
 一般的に出版というのは儲からない仕事だ。
 儲からないと金にならない。
 金がなくなった時には、どうするかっつうと出版屋さんは気が狂ったように新作を乱発したりするんだよね。それを担保に取次から金を借りるために。でも、そんな粗製乱造の本が売れるわけもなく、どこかで自転車操業に限界がやってくるわけだ。
 かくして私がカチン族のゲリラの隊長さんと酒を飲んだり、インチキ旅行会社のヤンエグ気取りのチャイニーズに騙されたりしていたあいだに、スポンサーの大陸書房は倒産、この小説は、以来ずっとフロッピー・ディスクの中で眠ることとなる。
 ちなみに私は物書きとしては日本でも、もっとも早い時期にデジタル化している一人だ。最初のワープロなんざ五インチのフロッピーで、七十万もした。悪戦苦闘の末、やっと打ち出した原稿を意気揚々と出版社に届けると、年寄りの編集者がヤな顔して『こうゆうのって、なんか心がこもってないような気がするんだよね』とかぬかしやがって、殺してやろうかと思ったもんだ。
 その後、リライトしたといえば『バブル経済の崩壊ってやつ』うんぬんのセリフくらいで、基本的にはいじってない。タイもずいぶん変わったが、人間の欲望の在り方なんて、そんなに変わるもんじゃないような気がする。それに欲望を描くのに、ポルノもミステリーも大差ない。
 今や時代はインターネットとか騒いじゃって、この作品も紙の『本』としては出版されないままにネットで『出版』する時代になってきた。元々マイナー指向の強い自分としては、かえって嬉しい限りだったりする。
 パンティープ・プラザで買った裏ビデオCD鑑賞したりしながらバンコクで編集作業してたらいきなりウイドウズ98がブチ壊れて往生したりもしたけど、とにかく誰の指図も受けずに仕事ができるってのはいいもんだ。どうせ小説家なんていくらがんばったって儲かるような仕事じゃないんだから。せめて好きにやりたいよね。
 ところで、本業のエロ屋さんとしての川本耕次を知らない、新しい読者の方もいると思う。あるいは、川本耕次という名前に釣られて買っちゃったけど、なんだ、いやらしくないじゃん、という方も。
 どっちの方も、ありがとう。特に、この作品だけはまったくの未発表の長編なので、買って読んでくれるってのはありがたい。感謝。

Pigion Blood あとがき

 第一章  失踪
 第二章  シンジケート
 第三章  マイケル『正直』ヨン
 第四章  堕天使の都
 第五章  熱帯夜
 第六章  逃 走
 第七章  殺戮のハイウェイ
 第八章  国境の町
 第九章  チャイナ・ホワイト
 第十章  血 笑
 第十一章  五百一人目の、女
 第十二章  日本人横町
 第十三章  どしゃ降りの街角で


いよいよ最終章です。とりあえず電子書籍版の時のあとがきを載せて置く。他にもここで掲載できそうな小説もあるので、順次、掲載します。


   第十三章  どしゃ降りの街角で


「冒険ダン吉に憧れてたとは、知らなかったな。まさかおまえが」
 エアコンの効いたタクシーの中で、仲田にそう言ってやった。
 スモーク・ガラスの向こうには、渋滞する車の排気ガスにどんより煙った街。
 今日もまた、朝から煮えたぎっている。
「そうか? 昔、よく話したじゃないか。子供のころだ。大きくなったらブラジルに行って一旗あげるんだって」
「ああ。日本も貧しかったからな」
 飢えていた......ってのは、何も食い物のことじゃない。仲田もおれも、それほどの年齢じゃない。
 けれど、得体の知れない欲望に突き動かされて、ジリジリしてた。
 ここではない、何処か。それは、金持ちの叔父さんが住むというブラジルでも、小林旭が出没する国籍不明の港町でも、どこでも良かった。ここでさえなければ......。
 消えてしまったわけじゃない。その想いは。ただ、ちょっとだけ忘れていただけだ。日常生活ってヤツにからめ取られて。
 ......そんな、仲田の気持ち、わからないでもない。
「済まないと思ってる。謝るよ。おまえまで巻きこんじまって」

 ピジョン・ブラッド

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 川本耕次・書き下ろし長編ハードボイルド
  ピジョン・ブラッド

 どこからか、耳慣れたテレサ・テンの持ち歌が流れてきた。
 興醒めなカラオケじゃない。目立たない隅に置かれたグランドピアノの伴奏で、色っぽいドレスの歌手が思い入れたっぷりに聞かせてくれる。
 アジアと日本を繋ぐ、里心をそそるような、懐かしい調べ。
 黙ってしまったスミットの顔を眺めて、酔えない酒を流しこむ。
 誰も、何も、言わなかった。
 ひとしきり素人芸のカラオケで騒いでいた団体が出ていって、高級クラブらしい雰囲気を取り戻した店内。
 肌寒いほどエアコンの効いた『祖界』に流れるたどたどしい日本語のテレサテンは、あまりに似合いすぎた。
「どう言ったらいいのかなあ......」
 重い口を開きかけたスミットがまた、黙ってしまう。
「......どう説明したら、信じてもらえるのか」
 その時、背後で突然、立ちあがる人の気配がした。三人とも、一斉にふり返る。

 
 第一章  失踪
 第二章  シンジケート
 第三章  マイケル『正直』ヨン
 第四章  堕天使の都
 第五章  熱帯夜
 第六章  逃 走
 第七章  殺戮のハイウェイ
 第八章  国境の町
 第九章  チャイナ・ホワイト
 第十章  血 笑
 第十一章  五百一人目の、女
 第十二章  日本人横町
 第十三章  どしゃ降りの街角で

すっかりストーリーも細かい描写も忘れていたんだが、読み返してみるとなかなか面白い。おいらはポルノ作家で、細かい描写で延々と書くのは得意なので、なるべく抑えて抑えて書いたんだが、それでも当時のタイの雰囲気は良く書けていると思う。基本的に自分が見聞きし、経験した範囲で書いているから。この章ではやっとミステリーらしい謎解きも登場し、伏線も回収しているw


   第十二章  日本人横町


 熱帯の焼けつくような陽射しがいくぶんなりとも弱まる頃になると、とたんに、街には人が増える。
 東南アジア経済を動かす中心ともいえるシーロム通り、例によってベンツと日本車とサムロが渋滞し、オフィス・レディがハイヒールを鳴らして急ぎ、暑い盛りにはどこかに消えていた露店の物売りたちが商品を並べ、電線には小鳥が鈴なりになって騒ぎ、クラクションと、排気ガスと、屋台料理のココナツ・オイルの匂いと、......すべてが混然一体となって澱んでいる。
 汗を流しながら、おれはタニヤ通りの約束の店に向かって歩いていた。
 そこで倫子と、早めの夕食を取ることになっている。
 宵には間がある時刻、タニヤ通りはむしろ物静かだ。
 どこにでも出没する露店の物売りが、ここにはいないせいもある。
 妙にこぎれいな、バンコクらしからぬ印象。......そう、ここは『日本人横町』と呼ばれる一角だ。
 ステーキ屋には彼女が先についていた。
「どぞ、こちらへ」
 名前を言うと、タニヤの和食屋のおさだまりのおしきせ、ゆかたを不器用に着込んだタイ娘が案内してくれた。
 奥まった、隅の席。
「......武紀さん......、あの、お久しぶり」
 戸惑ったような顔ながらも、どこか明るい表情だ。こちらもホッとした。
「ああ。挨拶なんかどうでもいい。どうしたんだ?」
「電話があったの、あの人から。それで、ジッとしてられなくって」
 つい、おとといの事だと言う。
 ......エリーザと会った晩だ。ついでに言うなら、スミットが二千億円のヘロインを灰にした日だ。

ピジョン・ブラッド

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 川本耕次・書き下ろし長編ハードボイルド
  ピジョン・ブラッド

「なんでボディガードを追い払ったんだ? こういうモノだって持ってるんだぜ」
 ゆっくりとベレッタを出しながら、おれは言った。
 白のサテン地に金糸の刺繍が施されたチャイナ・ドレス。下半身の微妙なカーブを巧みに映した部分に、銃口を強く圧しつけた。
「まあ、怖い」
 口先だけだ。まったく驚いた様子はない。無表情に立ちすくみ、むしろ陰阜の膨らみを突き出すようにして。
 だんだん、ベレッタはおれの太腿と彼女の陰阜のあいだに挟まれてしまった。ハンバーガーのパティみたいに。
「あたし、あなたの恋人に会わせてあげる、って、言ってるのよ」

 
 第一章  失踪
 第二章  シンジケート
 第三章  マイケル『正直』ヨン
 第四章  堕天使の都
 第五章  熱帯夜
 第六章  逃 走
 第七章  殺戮のハイウェイ
 第八章  国境の町
 第九章  チャイナ・ホワイト
 第十章  血 笑
 第十一章  五百一人目の、女
 第十二章  日本人横町
 第十三章  どしゃ降りの街角で

ラスト3章、いよいよクライマックスを迎え、それらしくなって来たが、実のところおいら、長編はストーリーを決めずに書き始めるので、ここまでたどり着いた時には辻褄合わせでヒイコラ言ってたw 今回は謎の女も登場して、007だったら「役者が揃った」というところだw


   第十一章  五百一人目の、女


「二千億円のヘロインを燃やしてやった」
 スミットは得意そうに言った。
「怪我はなかったか?」
「なあに、誰もいやしない。頭をブチ抜かれたチンピラの死体がひとつ転がっていただけだ。おまえが殺ったのか?」
「いや、......そうか」
 事の次第を説明してやった。
「ヘロインを持ち出す暇もなかったくらいだ。足手まといだと思ったんだろう。......そういう奴らだ」
 ひどく荒っぽい処理のしかただ。胸騒ぎがしてならない。
「大丈夫かなあ、仲田は。奴らのボスが、おそらく例のホフマンだ。奴がメソッドに連れて行ったというんだが」
 ふふん、と、いつもの冷笑を唇に浮かべてスミットは黙る。
「知ってるんだろ? 例のホームシックのフランス人だ。ホフマンて名前なんだろ?」
「ああ」
 こんな時、信用していいものかどうか、戸惑ってしまう。黙りこくったスミットの顔色からは何も読み取れない。
「知ってるんだろ? 何者なんだ、そいつは」
 やっと、重い口を開くスミット。
「......戦争の後でベトナムから流れて来たんだ。元はといえば、やっぱりヘロインだ。米軍相手にチャイナ・ホワイトを売っていた。そこから連中との繋がりが出来た」
 おれにもマルボロを勧め、火をつけてから、説明を続けた。

ピジョン・ブラッド

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 川本耕次・書き下ろし長編ハードボイルド
  ピジョン・ブラッド

 ウイスキーの密造工場か、小学校の実験室といった雰囲気の室内だ。
 床には雑然と、日本語ラベルの薬品瓶が並べられている。精製に使うんだろう。
 まだ精製が粗い褐色のヘロインが大量に、そしてほとんど真っ白な、純度の高いヘロインがセメント袋にいっぱい、見つかった。
 だが、そんなモノに興味はない。
「ゆっくり、ゆっくり殺してやるぜ」
 銃口を目玉の真ん中に圧しつけておれは言った。
「タマはいくらもある。指を一本ずつ吹っとばして、それから......ココだ」
 股間をスナッブ・ノーズで撫でる。
 そいつの顔色がサッと変わった。
「いや、ソコはナイフのほうがいいんじゃないかな?」
 レックが白く光るナイフの刃をパチンと出した。


 第一章  失踪
 第二章  シンジケート
 第三章  マイケル『正直』ヨン
 第四章  堕天使の都
 第五章  熱帯夜
 第六章  逃 走
 第七章  殺戮のハイウェイ
 第八章  国境の町
 第九章  チャイナ・ホワイト
 第十章  血 笑
 第十一章  五百一人目の、女
 第十二章  日本人横町
 第十三章  どしゃ降りの街角で

いよいよクライマックスに向けて、あと3章。少しは「らしく」なって来たかな? あの頃のバンコクはあちにちにスラムがあって、なんせ新しい開発だ建設というと、まずはスラムを作り、労働者をそこに棲ませるところから始まる。高層ビルの最上階のレストランで、そうしたスラムの貧乏人を見おろしながら食う中華料理はまた、格別ですw


   第十章  血 笑


 バンコク湾に面して広大な湿地帯がひろがっている。雨季のことゆえ、やたらに増えた泥水にどっぷり浸かったそこが、クロントイだ。
 ごみごみ建ち並んだバラック。
 いや、バラックだけじゃない。本物のゴミも積みあげてある。そのわずかな隙間が通路になって、学校に行ってないのか、半裸の子供たちが走りまわっている。典型的なスラムだ。
「オーケー、ストップ」
 サムロを停めさせる。
 大きな水溜まりが邪魔をしている。さすがにここまでしか入れなくて、引越しのサムロも停車したのだ。
 若い男はすでに荷物を抱えて運びはじめている。もちろん、離れた場所に停まったこちらには気づいていない。
 ムッと鼻をつく瘴気。この、水に浮かんだような『街』は、そもそもその水自体が腐っている。
「そこらのガキに頼んで、ゆくえを突き止めさせるかい?」
 レックが提案する。
「そうだな。この恰好じゃ、うかつに動けない」
 なにせホワイト・アイスクリームのスーツにパナマ帽だ。
 おもしろいモノでも見るような顔をして、子供が集まってきた。

ピジョン・ブラッド

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 川本耕次・書き下ろし長編ハードボイルド
  ピジョン・ブラッド

 追跡が始まった。
 こちらから相手は、良く見える。けれど段ボール箱を満載し、椅子までくくりつけた相手からは、バックミラーでもこちらは見えないはずだ。
 大通りをつながって走った。
 雨季のせいで、かえって陽射しはきつい。雨がすっかりホコリを洗い流してしまい、午後の強い照りでコンクリートがジリジリと焼ける。まるで、こちらがローストダックになった気分だ。
 エアコン付きタクシーにすれば良かったかな......と、ちらっと思った。
 けれどすぐに、サムロで正解だったと、思い知らされる。
 ガラクタの宝石を満載したシンジケートのサムロは、露店のあいだをすり抜けるようにして、とんでもない狭い路地に入りこんでいったのだった。

 第一章  失踪

 第二章  シンジケート
 第三章  マイケル『正直』ヨン
 第四章  堕天使の都
 第五章  熱帯夜
 第六章  逃 走
 第七章  殺戮のハイウェイ
 第八章  国境の町
 第九章  チャイナ・ホワイト
 第十章  血 笑
 第十一章  五百一人目の、女
 第十二章  日本人横町
 第十三章  どしゃ降りの街角で

さて、バンコクに戻った主人公は、ますます厄介な事態の中に巻き込まれて行く。今にして読み返すと、1980年代のタイの雰囲気はよく出ているね。ストーリーはもちろんフィクションだが、細かい所の描写は全ておいらが経験した現実に基づいているから。ルビーの密輸やってるゲリラの親分と飯食ったり、国境の町でインチキ薬膳料理食ったり、ニューロードでアヒルご飯食ったりw



   第九章  チャイナ・ホワイト


 マイケル『正直』ヨンの店は閉まっていた。二十年続いた店も閉店だろうか。おれのせいだ。けど、ぜんぜん心は痛まない。
 バンコクに戻ったが、別にもう、することもない。
 ......そうか、ひとつだけ、すべきコトがあった。パナマの帽子だ。
 伊勢佐木町で買ったあの帽子は、ずいぶん高かった。今時珍しい本パナマだ。
 あたかも日暮れ時。ゴーゴーバーに赴くには、ちょうどいい時間だ。
「ホテルはやめだ。......パッポン通りに行ってくれ」
 ルームミラーの中で運転手がニタッと笑った。確かに、空港からいきなりパッポンに向かうような助平はあんまりいない。
 メソッドに赴く前に、レックには電話で頼みごともしてある。
 ウィライのことだ。
 バンコクを発つまでには、アパートに戻らなかった。けれど、もう戻っていなければいけない頃だ。

ピジョン・ブラッド

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 川本耕次・書き下ろし長編ハードボイルド
  ピジョン・ブラッド

「嫌いなのか? ムスリムは」
「だってあいつら、豚を食わないんだぜ」
 途中で話がややこしくなったので、レジをやっている娘が通訳してくれていた。
 ふたり揃って、いかにも不快そうな表情をしているのがおかしい。
「そうだな、ムスリムは豚は食わない」
 自慢のビルマ風の薬膳中華とかいうシロモノ。......きっと蜥蜴だとか蛇だとか穿山甲だとか入っているに違いない。その濁ったスープを啜りながら、一応おれも同意した。
 ......この料理だって、とんでもないシロモノだけどなあ。
「しかも、だ。あいつらは酒も飲まないし、煙草も吸わない」
 健康にいいからと薬草入りの茶を薦め、オヤジの熱弁は続いた。
「そのうえ、なんと、......ワイフを四人も持ってるんだぜ」
「マイペンライ、......だって、彼らは酒も飲 まないし、煙草も吸わないんだろ? 他に楽しみ、ないじゃないか」
 レジの娘が頬を染めてクックッと笑いながら通訳してくれた。

 
 第一章  失踪
 第二章  シンジケート
 第三章  マイケル『正直』ヨン
 第四章  堕天使の都
 第五章  熱帯夜
 第六章  逃 走
 第七章  殺戮のハイウェイ
 第八章  国境の町
 第九章  チャイナ・ホワイト
 第十章  血 笑
 第十一章  五百一人目の、女
 第十二章  日本人横町
 第十三章  どしゃ降りの街角で


舞台は国境の町へ。メソッドは観光コースになってないので、バッグパッカーも行かない街だが、宝石の取り引きは盛んだ。ルビーはカチン族ゲリラの資金源で、おいらはゲリラの親分と酒を飲んだ事がある。「象部隊は強いんだってね」と聞いたら喜んでいた。雨季にはミャンマー政府軍の軍用車が動けないので、重機関銃積んだ象をあやつるカチン族の方が強いのだw


   第八章  国境の町


 ピサヌロークまではまともな飛行機だった。そこで乗換えることは知っていたが、まさか、こんな飛行機だとは思わなかった。
 ......新聞がタイ語と中国語だけになる、それはまあ、許せる。
 スチュワーデスがひとりしかいない。
 これもまあ、いい。どうせ客はおれと、歩けない幼児を含めても五人だけ。
 だが、わずかな助走でヨタヨタと飛びあがった、双発のターボプロップは、いつまで待っても高度をあげる気配はない。
 プロペラが雨雲をかきまわしていた。
 水蒸気が霧となって流れ、視界ゼロ。短い翼の先もすぐに見えなくなってしまう。
 もっとも、すぐに雲は切れた。
 水田が青々と広がり、低く霞んだ山なみが続き、ゆったり流れる河は、銀色に鈍く輝いていた。
 巡航高度になったはずだ。
 だが、雨季のスコールに濡れそぼった下界は、まだくっきりと眼下にある。
 濡れて黒いコンクリートの道を、半袖シャツの男が運転するバイクが走っていた。
 ヤシの木に囲まれた農家。ウロつく水牛。荷台に人間が満載されたトラック。手を振ってやりたくなる。
 ......とまあ、こんな具合だ。
 山にさしかかると、今度は山岳民族の暮らしが観察できる。
 樹木がなく、若草色の絨毯が敷きつめられた一角が、焼畑農業の見本だ。その隅には粗末な家が建っているが、誰も、人の姿は見えない。
 やがて、また山、また山。タイという国がいかに広いか、思い知らされる。
 スミットは言った。

ピジョン・ブラッド

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 川本耕次・書き下ろし長編ハードボイルド
  ピジョン・ブラッド

「バランタインの、......十七年だ。一杯どうかね?」
 隅にセットされたバーから、氷の満たされたグラスが出された。ボトルの封を開きながら、勧めてくる。
「ソーダ割りにしてくれ」
 もちろんソーダも用意されていた。リムジンは、無意味に胴体が四フィートも長いわけじゃないらしい。
 徐行のようにゆったりとクルージングを続けている。が、運転席のスピード・メーターは百km/hを軽く越えていた。
「......どうやらキミは仲田とかいう日本人を探しているらしいが」
 不気味なほどに静かな室内。車に乗っていることを忘れさせるほどだ。高級軍人らしき男の言葉は重苦しい。
「それはお門違いってものだ。いいかね、これが最後の忠告ということになる。日本に戻りたまえ」
 窓の外を黙りこくって流れる農家の灯を眺めながら、おれは何も言わなかった。



 第一章  失踪
 第二章  シンジケート
 第三章  マイケル『正直』ヨン
 第四章  堕天使の都
 第五章  熱帯夜
 第六章  逃 走
 第七章  殺戮のハイウェイ
 第八章  国境の町
 第九章  チャイナ・ホワイト
 第十章  血 笑
 第十一章  五百一人目の、女
 第十二章  日本人横町
 第十三章  どしゃ降りの街角で


そうか、こんなん書いて居たんだなぁ、なんて、自分でも忘れていて新鮮ですw 物語は半分を超えて、話が動き始めた。今回は派手なアクション・シーンもありますw いまさら紙の本で出版したいとも思わないが、Vシネマあたりで映像化してくれないかなw さほど制作費はかからないと思う。


   第七章  殺戮のハイウェイ


 ホンダは裏切らなかった。
 メーターの赤い針は二百km/hを越えて小刻みに震えている。
 おれはガソリン・タンクにしがみついて、役立たずの小さいカウリングにもぐって、ただ身体を小さくしているだけだ。
 それ以上のことは出来ない。
 が、メルセデスはその機関部も特注なんだろうか。ジリジリと追いあげてくる。
 ワインディングだったら負ける気遣いはない。だがバンコクまでひたすら一直線のハイウェイだ。
 あっという間に、ほとんど距離を置かず接近されてしまった。
 眩しいほどに大きくなったヘッド・ライトが、ミラーの中でせわしなく点滅する。
 それだけじゃない。
 両側の窓から箱乗りに、男たちが姿をあらわす。それぞれ、マシンガンらしきモノを手にして。
 撃たれたらピリオン・シートのウィライが真っ先にヤラれてしまう。
 軽くフット・ブレーキを踏んだ。効かない程度に軽くだ。
 追跡してくるメルセデスがブレーキを踏み、ハロゲンがわずかに遠くなる。
 逆にスロットルを開いて逃げてしまおうかと思ったが、かろうじて思いとどまった。

ピジョン・ブラッド

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 川本耕次・書き下ろし長編ハードボイルド
  ピジョン・ブラッド

 このままヨコハマまで走って行けたらどんなにいいだろう。
 おれの店、ニューグランド裏のバー『ライオン・カフェ』に乗りつけて、バーテンのキムにトロピカル・ドリンクを作らせて......。もちろんおれは、オールドパーのロックだ。人間、嘘泣きでも泣くと、センチメンタルになるもんだ。つまらないホームシックばかり湧いてくるのも、あるいは風圧で流れる涙のせいかも知れない。
 やたら涙が流れて、止まらない。
 Tシャツ一枚の上半身から容赦なく体温が奪われてゆく。下半身だって夏物の薄手のズボン一枚だ。膝が痺れてくる。
 ウィライはもっと大変だろう。オートバイは、後ろに乗っているほうが疲れる。
 背中にぬくもりが伝わって、それだけがわずかな救いだ。
 道は間違ってないはずだが、なにせ土地カンがない。時計を確かめると、パタヤを出てから、一時間にわずかに足りないほどだ。
 少なくともまだ一時間。この殺風景なハイウェイとつきあうのと思ったら、ウンザリしてきた。
 はるかかなたから対向車のヘッドライトが揺れて見える。

 第一章  失踪
 第二章  シンジケート
 第三章  マイケル『正直』ヨン
 第四章  堕天使の都
 第五章  熱帯夜
 第六章  逃 走
 第七章  殺戮のハイウェイ
 第八章  国境の町
 第九章  チャイナ・ホワイト
 第十章  血 笑
 第十一章  五百一人目の、女
 第十二章  日本人横町
 第十三章  どしゃ降りの街角で


速書きのおいらとしちゃ珍しく、この小説はたっぷり時間をかけて書いたはずなのに、今となるとほとんどストーリーも覚えてない。テキスト探し出してカタチを整えて毎晩アップするのを、一番楽しみにしているのはおいらだw 物語はいよいよ佳境に入って、これでストーリーの半分くらいまで来ている。ラストシーンだけは覚えているが、途中がどうだったのか、完全に忘れている。


     第六章  逃 走


 朝っぱらからデッキチェアーで海を眺めていると、脳味噌が溶けてしまいそうだ。
 眠ってるのか、さっきから動かないウィライに話しかけた。
「ウォーター・スクーター、乗るかい?」
 静かなパタヤの海。
 派手な色に塗られた観光船が、プカプカ浮かんでいる。さっきからその合間を、小さなウォーター・スクーターがブンブン走りまわっているのだ。
「ううん。......あたし、ここで寝てる」
 ヤシの葉で葺いた一本柱のきのこ型の小屋の日陰で、彼女はだるそうだ。けれど眼をこすりながら起きあがった。
「待って。あたし、お金を払ってあげる」
 砂浜のスクーター屋に、彼女は交渉をはじめた。
 おれは、波打ち際でスズキの白いタイプを選んだ。
 ウォーター・スクーターというのは、外部エンジンをつけた、ごくごく小型のモーターボートといったところだ。
 オートバイと同じようなハンドルがついている。舵はワイヤーでエンジンそのものが動くし、スロットルもオートバイと同じだ。
「あの船、見えるな、近くに行くと危険。ロープに引っ掛かる」
 無人の観光船は何本ものロープで固定されている。斜めに水中に潜って行くロープを示して男は言った。
「オーケー?」

ピジョン・ブラッド

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 川本耕次・書き下ろし長編ハードボイルド
  ピジョン・ブラッド

「おねがい、......もう帰ってきて」
 背筋を撫でられるみたいに、くすぐったい声。彼女は、そう、泣いている。
「あなたまで危ないメに会わせられない」
 重い気分のままでエレベーターに乗った。
 部屋は、暗い。窓から見える海には白熱電球の色をした漁火が揺れている。
 ウィライが、シーツにくるまったまま起きあがる。そして、そのまま、ジッとこちらを見ている。
「寝てなかったのか?」
 できるだけ、暖かい声で聞いたはずなのだ。なのに、その瞳からぽろぽろとこぼれ落ちる、涙。
 ......やっぱり駄目だ。
 と、おれは思った。やっぱり、女の扱いは上手くない。ひと晩に二人も泣かせてしまうなんて、最低の男だと、そう思った。


この小説を書くために、BKKには何度も行って、滞在中は毎晩、ゴーゴーバーに通って、一度もオンナは抱かずに世間話をしたり、ディスコに同伴したり、そんな日々を送っていた。白人客が多い店は優良店ですw パタヤにも行った。パタヤにはゴーゴーバーはない。何か規制の関係だろう。ただし、オカマは山ほどいる。


    第五章  熱帯夜


 ウィライ・パプーン。......この少女が、仲田といっしょにパタヤに行ったのだ。
 間延びした風景をリゾートに向けて走るエアコン・バスのシートで、おれは落ちつかない刻を過ごしていた。
 間違いない。
『ライラック・バー』で膝に乗った女が、たしかに言った。こちらが名前を出さないうちに『ナカタ』と口にして、黒いワンピースの水着で踊っていた彼女を指さした。
 本人には確かめてない。可能性としては、こういうことも考えられる。
 ......ウィライも例の一味で、失踪の手引きをした。あるいは仲田に眼をつけたのはウィライだったのかも。けれど眠っている彼女にそんな様子はかけらもない。
 ジーンズにトレーナー。背中にしょったままのリュックはぺちゃんこだ。まるでファランポンの駅で困り果てている家出少女といった風情。
 飲みかけのコーラ瓶を『あげる』なんて寄こしたり、酸っぱいキャンディーを口に入れてくれたり、安っぽいタイ語の雑誌の記事を解説してくれたり、子供っぽいサービスを披露したあげく、眠ってしまった。
 ......いや、違う。この娘は何も知らない。単なるお人よしの売春婦だ。
「......あたし、眠い」
 すっかり眠っているのかと思った彼女が、手を延ばして、腕を握ってくる。
 小さい手だ。湘南のサーファー娘くらいの、褐色の肌。おかっぱの髪ごと寄りかかって、やがて本格的に静かに眠ってしまった。
 ガラス越しの陽が斜めにウィライの顔を照らしている。おれは読み捨てられた雑誌で、眩しすぎる陽射しをさえぎってやった。
 ......いっしょにパタヤに行くかい?
 オレンジ・ジュースを二杯ほど飲ませて聞いたのだった。仲田のことなんか、おくびにも出さずに。

ピジョン・ブラッド

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 川本耕次・書き下ろし長編ハードボイルド
  ピジョン・ブラッド

 ......おれが仲田だったら、と考えてみた。どの女を連れ出すだろう。
 あいつの趣味はわかっている。
 胸が大きくて痩せぎすのオンナが好きなのだ。けど、女たちみんな、痩せぎすで胸が大きい。
 眼の前にいるチャイニーズ系の女を呼びつけた。
 すぐ無遠慮に、膝に尻を乗せてくる。
 写真を女の手に渡した。もはやボロボロになっている。
 レックがかわりに尋ねてくれた。
 気のないような顔をして、女がフンフンとうなずいている。
 この表情じゃ、どうせまた、だめだろうと、諦めたころだ。
 彼女の口から『ナカタ』という言葉が漏れた。そして、踊っている女のひとりを指さしている。

 
 第一章  失踪
 第二章  シンジケート
 第三章  マイケル『正直』ヨン
 第四章  堕天使の都
 第五章  熱帯夜
 第六章  逃 走
 第七章  殺戮のハイウェイ
 第八章  国境の町
 第九章  チャイナ・ホワイト
 第十章  血 笑
 第十一章  五百一人目の、女
 第十二章  日本人横町
 第十三章  どしゃ降りの街角で

1980年代の終りくらいか、バンコクで見聞きし、体験したアレコレを、ジグソーパズルのように繋ぎ合わせて、物語をでっち上げる。ピースを集めるのに3年くらいかかった。その間に版元は倒産してしまったが、それもまたハードボイルド小説家らしくて良いw


   第四章  堕天使の都


 時間が早いせいか、そんなに混んでいない。カウンターで踊る白いビキニの少女は、すぐにおれの姿を見つけて、明るく笑いながら手を振った。
 パッポンのゴーゴーバーはいつものようにJBLの騒音が轟き、効きすぎの冷房の中で暗く、落ちつかない。
 ビールを頼んで彼女が来るのを待った。
「やあ、悪いヤツはどうなった?」
 けれど先に出てきたのは例のボーイだ。おれの帽子を斜めにかむって、得意そうな顔をしている。
「うまく逃げたよ。キミは......、殴られたのか?」
「一発殴らせてやったんだ。こちらは手を出せないけどね」
 まだ眼のまわりが黝んでいる。おれを逃がすために嘘をついたんで、仕返しに殴られたんだろう。
「なんで、キミは手を出せないんだ?」
「プロだから。ルンピニにも出てるんだぜ」
 スタジアムで戦う、ムエタイの選手だと、ポーズを作って自慢した。
 なるほど、小柄な彼が身構えると、それだけで一瞬、殺気のようなものが走る。ホンモノだった。

 ピジョン・ブラッド

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 川本耕次・書き下ろし長編ハードボイルド
  ピジョン・ブラッド

 ヨコハマ中華街なんて糞くらえだ。放っといても客が来るもんで、最近つけあがってやがる。競争がないとニンゲンってヤツはいくらでもダメになるという見本だ。
 おれは、この店のコックを騙くらかして横浜に連れ帰ってアヒル・ライスの店を出す計画を練りながら時間をつぶしていた。
 が、その甘い夢は、儲かりすぎた金を税務署にみつかりそうになったところで破られてしまう。
 ヨンだ。
 どこからかあらわれたマイケル・ヨンが、向かいの店をあけていた。
「おい、かんじょう頼む......!」
 おれは慌てて五十バーツ紙幣を出しながら立ちあがった。

 
 第一章  失踪
 第二章  シンジケート
 第三章  マイケル『正直』ヨン
 第四章  堕天使の都
 第五章  熱帯夜
 第六章  逃 走
 第七章  殺戮のハイウェイ
 第八章  国境の町
 第九章  チャイナ・ホワイト
 第十章  血 笑
 第十一章  五百一人目の、女
 第十二章  日本人横町
 第十三章  どしゃ降りの街角で

おいらは10年以上小説家をやっていて、数しれず小説を書いて、その殆ど全部がポルノ小説だった。さすがに飽きる。そこで今はなき大陸書房というところの依頼でハードボイルド小説を書き始めたんだが、取材に熱中しすぎて執筆は難航。やっと書き上げた時には大陸書房は潰れていた。大陸書房の倒産は1992年なので、その前あたりに書いた原稿です。ハードボイルドといっても、おいらが好きなのはハメットやチャンドラーや大藪とかじゃなく、カーター・ブラウン的な軽ハードボイルドで、田中小実昌が訳したカーター・ブラウンなんて絶品だったね。


   第三章  マイケル『正直』ヨン

『シャングリラ』は、バンコクの街を割って流れる大河メナム・チャオプラに臨む五つ星ホテルだ。
 世界ホテル・ランキングで連続第一位を続けるオリエンタルの隣にのうのうと建っているというだけでも、自信のほどがわかる。
 お仕着せの金モールを着込んだボーイが、サムロから降りたおれをうさん臭そうに眺めながら、ドアを開いてくれた。
 言葉だけは「グッドイブニング・サー」と慇懃に。
 ロビーでは下手糞な弦楽四重奏がモーツァルトを演奏している。
 いくら下手でも、コントラバスのかわりにエレキ・ベースでも、とにかく弦楽四重奏だ。オカマの歌手とは違う。これじゃオリエンタルではオペラをやっているかも知れない。
 見張りは貧乏げな連中ばかりだった。それで考えたのだ。
 この国では明らかに『階級』が存在する。金を持っているヤツと、持っていないヤツ。そして、貧乏人はこういう場所には入れない。ここならアジア・ホテルと違って、追跡者に発見されずにホテル専属タクシーのメルセデスに乗れる。
 このまま出てもいいが、連中はまだ警戒心を濃くしたままだろう。
 こぢんまりしたバーに入った。
 カウンター、いくつかのテーブル。客はあまりいない。
 白人の老夫婦が静かにビールを飲んでいるのと、ドレスにタキシードで決めたタイ人のカップルがカクテルなど嗜んでいるのと。
 それだけだ。
「オールドパー。......ロックで」
 カウンターのカップルの脇に位置を占めた。ついでにビールも頼んだ。喉も乾いているし、こいつはチェイサーだ。
 氷入りクロスターのグラスで、ロックが三杯、空になった。
 そろそろ良い頃だ。おれは立ちあがる。
 ほとんど同時に、このバーに入ってくるカップル。その顔を見て、おれは絶望的な気分になってしまっていた。


好評! ピジョンブラッド

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 川本耕次・書き下ろし長編ハードボイルド
  ピジョン・ブラッド

 ......とにかく連中の眼から離れることだ。  これが威しで済んでいるうちはいい。おれが手を引かないことを知ったら、連中はどうするだろうか?
 まずは胃潰瘍の殺し屋。拳銃でおれを撃とうとした。次が慇懃無礼な脅迫だ。
 すると次はまた殺し屋か?
 荷物を整理した。パスポートと航空券と金。最低これだけあれば大丈夫だ。チェックアウトの必要はない。アメックスで、サインまで済ませてある。いなくなったのを知れば、フロントの不愛想な兄ちゃんが、勝手に金額を書きこんで、清算してくれるはずだ。
 だが、どうやって出るかだ。見張られているのは間違いない。

 第一章  失踪

 第二章  シンジケート
 第三章  マイケル『正直』ヨン
 第四章  堕天使の都
 第五章  熱帯夜
 第六章  逃 走
 第七章  殺戮のハイウェイ
 第八章  国境の町
 第九章  チャイナ・ホワイト
 第十章  血 笑
 第十一章  五百一人目の、女
 第十二章  日本人横町
 第十三章  どしゃ降りの街角で

おかげさまで好評の「ピジョンブラッド」2回目です。1回目はこちらです。書き上げた時には版元が潰れていたので、紙の本では出版されていない。pdfでは少しだけ売った。舞台は1980年頃のタイです。



   第二章  シンジケート

 最悪の目覚めだった。
 のろのろ起きあがって、新鮮な朝の景色でも眺めようと、ホテルのカーテンを引きあけて、ギョッとした。
 外はベランダ、白い制服のボーイが洗濯したタオルを干している。閉めっきりだったから、そこが物干し場だとは気がつかなかったのだ。
 立ちあがっただけで、疲れはてた全身がギシギシと軋む。まるで頭の中身が鉛になってしまったように鈍痛が澱んでいる。
 ボーイが、こちらを向いてニカッと愛想笑いをした。
 なんでこのホテルはジャパゆきクンなんて使ってるんだ......、と思ったりした。
 どうやら本当に脳味噌が鉛になっちまったらしい。
 それからハッと気がついて、枕の下をまさぐった。
 鈍く光る鉄の色。ひんやりした金属の感触は、やっと意識をはっきりさせてくれる。

ピジョン・ブラッド

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 川本耕次・書き下ろし長編ハードボイルド
  ピジョン・ブラッド

 ・・・それを、仲田はニヤニヤ笑いながら見ている。そう、いつも仲田とおれはつるんで流していた。ヤツがスケコマシ、おれがゴロマキ。ちゃんと分業はうまく行っていた。
 あいつだって、いまさら暴力沙汰に巻き込まれるほどバカじゃないだろうに。
 けどピジョンブラッドって何だ?

 第一章  失踪

 第二章  シンジケート
 第三章  マイケル『正直』ヨン
 第四章  堕天使の都
 第五章  熱帯夜
 第六章  逃 走
 第七章  殺戮のハイウェイ
 第八章  国境の町
 第九章  チャイナ・ホワイト
 第十章  血 笑
 第十一章  五百一人目の、女
 第十二章  日本人横町
 第十三章  どしゃ降りの街角で

1980年代に書いた小説なんだが、書いているうちに版元が倒産してしまったので、刊行されなかった。脱ポルノ小説家の試みはかくて潰えたんだが、取材と称してバンコクに沈殿しているうちにすっかりあの街に馴れてしまったw


 第 一 章  失踪

 黒々と太い縁の、眼鏡。
 いかった肩を大きく震わせて、ワンピースのオカマが『昴』を歌いあげている。陶酔しきった表情が歴然とおれを向いている。
 なんでバレたんだ? 韓国や台湾のツアーの宵っぱりの残党も、ロビーにはたむろしているっていうのに。
 日本人客は早朝の水上マーケット観光にそなえて眠りこけているんだろう、エアコンの冷気が低く澱んだロビーに、おそらく日本人はおれ、一人。
 そばに寄ってきたオカマの笑顔にどこか居心地の悪さを覚えながら、ビールのグラスを口に運んだ。
 氷で割ったクロスター。横浜からの十時間の旅の疲れのせいもあって、身体はほどよくだるい。
 アジア・ホテル、バンコク。
 遊びに来たわけじゃない、事前の予約もしてない。ラウンジでオカマが歌っている、この程度の宿で充分だ。
 何日かかるか、いや、下手をすれば何週間ということにもなりかねない身の上だ。
 ひとりの男が、この街で失踪してしまったのだ。

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